摂取カロリーの決め方

【自分のボディマス指数(BMI)を知る】

がんの食事療法を始める前に、自分が太っているか痩せているかを数字で評価しておきます。太り過ぎの場合は体重を標準に向けて減らすように食事の摂取カロリーを減らすようにします。痩せ過ぎている場合は体重を増やすように摂取カロリーを増やします。
肥満度の指標としてボディマス指数(Body Mass Index:以下BMIと略す)が使われます。
これは体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で求められます。
例えば身長170cmで体重60kgの場合は、60÷1.7÷1.7で計算して20.8(kg/m2)になります。BMIの標準値は22で、標準から離れるほど有病率が高くなることが知られています。したがって、BMIが22が適正体重とすると、体重(m)× 体重(m)×22の値が適正体重(kg)になります。
身長が1.6mの場合は、1.6×1.6×22=56.3kgになります。

肥満の判定基準は国により異なります。WHOでは25以上を体重オーバー(overweight)、30以上を肥満(obese)としています。日本肥満学会では、BMIが22を標準体重としており、25以上を肥満、18.5未満を低体重としています。日本人ではBMIが30以上の高度肥満の人の割合は2〜3%程度であるのに対して、米国ではBMI30以上の肥満が人口の約30%を占めるという事情が関連しています。
BMIが18.5から25の間に維持することを目標にして、体重オーバーの場合はBMIが25以下になるまで摂取カロリーを減らします。一方、体重減少のあるがん患者さんは、食事摂取を増やし、エネルギーバランスが負にならないように注意します。エネルギーバランスというのは、食事からの摂取カロリーと体が消費するカロリーの差で、摂取カロリーが消費カロリーより少なければ、体は脂肪組織や筋肉組織を分解してエネルギーを産生するので体重が減ってきます。
がんの再発予防や治療を目的に極端なカロリー制限を伴う食事療法を実践している方もおられます。しかし、BMIが18.5未満の痩せ過ぎになるような食事制限は栄養不良や抵抗力低下を引き起こします。がんの治療中や治療後は、BMIが18.5〜25の範囲を目標に、自分にとって健康的な体重を維持することが大切です。

【基礎代謝量と適正摂取カロリー】

体が消費するエネルギーの量や食事に含まれる熱量を表す単位として「カロリー」が使われます。一日に消費するエネルギー(エネルギー代謝量)は身体の大きさ(身長・体重)及び運動量により変りますが、運動をしないで安静状態における一日当たりのエネルギー消費量を基礎代謝量と呼びます。
基礎代謝量は身体が大きい方ほど大きくなり、同じ体重でも筋肉量が多い(体脂肪率が低い)ほど基礎代謝量が大きくなります。同じ身長・体重でも高齢になると低下しますが、その理由は高齢になると筋肉量が減少するからです。
基礎代謝量の計算方法はいかつかありますが、ハリス・ベネディクトの方程式が欧米では一般的です。この方程式によると、身長・体重・年齢から以下の式で計算できます。

男性基礎代謝量(kcal)=66.47+13.75×体重(kg)+5.0×身長(m)-6.76×年齢

女性基礎代謝量(kcal)=665.1+9.56×体重(kg)+1.85×身長(m)-4.68×年齢

この式は欧米人にはよく当てはまりますが、日本人はこの計算値より2%ほど低いと言われています。これは欧米人が日本人に比較し骨格が発達して筋肉量が多いためであり、日本人の場合はこの計算値に0.98を掛けて補正します。
厚生労働省が策定している食事摂取基準2005年度版に示されている日本人の年代別基礎代謝基準値を表1に示しています。性別と年齢から得られる基礎代謝基準値(kcal/kg/体重/日)に適正体重を掛けると1日の基礎代謝量が得られます。例えば、男性で40歳で身長が170cm(適正体重は63.6kg)であれば、63.6kg×22.3=1418 kcalになります。
基準体重における基礎代謝量は成人女性で1日1000〜1300キロカロリー、成人男性で1300〜1500キロカロリーになります。

性 別
男 性
女 性
年齢(歳)
基礎代謝
基準値(kcal/kg体重/日)

基準体重(kg)

基礎代謝量
(kcal/日)
基礎代謝
基準値(kcal/kg体重/日)

基準体重(kg)

基礎代謝量
(kcal/日)
1〜2
61.0
11.7
714
59.7
11.0
657
3〜5
54.8
16.2
888
52.2
16.2
846
6〜7
44.3
22.0
975
41.9
22.0
922
8〜9
40.8
27.5
1122
38.3
27.2
1042
10〜11
37.4
35.5
1328
34.8
34.5
1201
12〜14
31.0
48.0
1488
29.6
46.0
1362
15〜17
27.0
58.4
1577
25.3
50.6
1280
18〜29
24.0
63.0
1512
22.1
50.6
1118
30〜49
22.3
68.5
1528
21.7
53.0
1150
50〜69
21.5
65.0
1398
20.7
53.6
1110
70以上
21.5
59.7
1284
20.7
49.0
1014

表1:日本人の基礎代謝基準値
(出典:厚生労働省 日本人の食事摂取基準2005年度版)

仕事や運動をするとその身体活動に応じたエネルギーが必要になります。デスクワークは1時間当たり約100キロカロリーを消費し、普通に歩行すると1時間当たり150〜200キロカロリーを消費します。エアロビクスやジョギングなどの運動はその運動強度に応じて1時間に200〜500キロカロリー程度を消費します。
一日に消費するエネルギーは基礎代謝量に、次の身体活動のレベルに応じた係数を掛けて算出します。

低い(レベル1)=1.5:生活の大部分が座位で、静的な活動が主な場合。

普通(レベル2)=1.75:デスクワーク中心の仕事であるが、職場内での移動や立位での作業や接客など、あるいは通勤・買い物・家事・軽い運動のいづれかを含む場合

高い(レベル3)=2.0:移動や立位の多い仕事・余暇に活発なスポーツを行っている場合

つまり、『必要なエネルギー量=基礎代謝量(kcal/日)×身体活動レベルに応じた係数』で算出されます。先ほどの、40歳男性で身長170cmで身体活動レベルが2の場合は、1418 kcal×1.75=2481.5kcalになります。

厚生労働省は日本人の食事摂取基準(2005年度版)で、エネルギーの食事摂取基準を各性別・年齢により表2のよう発表しています。

性 別
男 性
女 性
身体活動
レベル
レベル1
(1.5)
レベル2
(1.75)
レベル3
(2.0)
レベル1
(1.5)
レベル2
(1.75)
レベル3
(2.0)
年齢(歳)
1〜2
-
1,000
-
-
900
-
3〜5
-
1,300
-
-
1,250
-
6〜7
1,350
1,550
1,700
1,250
1,450
1,650
8〜9
1,600
1,800
2,050
1,500
1,700
1,900
10〜11
1,950
2,250
2,500
1,750
2,000
2,250
12〜14
2,200
2,500
2,750
2,000
2,250
2,550
15〜17
2,450
2,750
3,100
2,000
2,250
2.500
18〜29
2,250
2,650
3,000
1,700
1,950
2,250
30〜49
2,300
2,650
3,050
1,750
2,000
2,300
50〜69
2,100
2,450
2,800
1,650
1,950
2,200
70以上
1,850
2,200
2,500
1,450
1,700
2,000

表:日本人の推定エネルギー消費量(kcal/日)
基礎代謝量に掛ける係数は、18〜69 歳では、身体活動レベル1=1.50、レベル2=1.75、レベル3=2.00 としたが、70 歳以上では、それぞれ1=1.45、2=1.70、3=1.95 となっている。(出典:厚生労働省 日本人の食事摂取基準2010年度版)

【中鎖脂肪ケトン食でのカロリー摂取】

私たちは、消費するエネルギーに見合ったカロリーを食事から摂取することによって生命活動を維持することができます。3大栄養素の1g当たりの熱量(カロリー)は、糖質と蛋白質が4キロカロリー、脂肪が9キロカロリーで計算されます。つまり、糖質を100グラム食べると400キロカロリーを摂取し、脂肪を100グラム食べると900キロカロリーを摂取したことになります。(中鎖脂肪トリグリセリドは1グラムが8カロリーで計算します)

自分に必要なカロリー量を知り、もし現在体重がオーバーであれば、消費カロリーの60〜80%のカロリー摂取で過剰な体内脂肪を燃焼させて標準体重まで減量します。
現代栄養学では、摂取カロリーから計算した3大栄養素の好ましい摂取比率として、糖質が60〜65%、脂肪が20〜25%、蛋白質が10〜20%という数字が提唱されています。しかし、がんの中鎖脂肪ケトン食療法では、糖質からのカロリー摂取比率を10%以下に減らし、蛋白質から15〜25%、脂肪から65〜75%を目標にします。

蛋白質はエネルギー源としてより細胞を構成する成分や酵素などの材料として使われ1日に体重1kg当たり1〜2gが必要です。がん治療中は回復力や免疫力を高めるために蛋白質の摂取量を多めに設定し体重1kg当たり1.5〜2.5gを目標にします。体重60kgの人で90g〜150gになり、これは360〜600キロカロリーに相当します。体重60kgの人の平均的な摂取カロリーを2400キロカロリー程度とするとカロリー比率は15〜25%になります。

糖質からのカロリー比率を10%にすると2400キロカロリーの場合は240キロカロリーとなり、糖質1gが4キロカロリーなので1日60グラム以下になります。
残りの65〜75%のカロリーを脂肪から摂取します。2400キロカロリーの場合は、脂肪から1560〜1800キロカロリーになり、脂肪1gが9キロカロリーなので、1日の脂肪は170〜200グラム程度になります。

脂肪は、細胞膜や神経組織などの構成成分の材料として必要ですが、摂り過ぎると動脈硬化やがんを促進することから、一般的には摂取量を総エネルギー量の20〜30%程度に抑えるのが望ましいと言われています。
しかし、脂肪の取り過ぎが健康に悪いのは、糖質も多く摂取した場合や、動物性の飽和脂肪酸やω6系不飽和脂肪酸の多い一部の植物油を多く摂取した場合です。糖質の摂取を減らせば脂肪を多く摂取してもがんや動脈硬化を促進することはありません。オレイン酸を含むオリーブオイルやω3系不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)を含む魚油、αリノレン酸を含む亜麻仁油(フラックスシードオイル)や紫蘇油(エゴマ油)を多く摂取するとがんも動脈硬化性疾患も減らせることが明らかになっています。

【メモ:痩せ過ぎはがん患者の予後を悪くする】

痩せ過ぎは太り過ぎよりも短命であることが、東北大公衆衛生学の研究グループの最近の研究で明らかになっています。 研究グループはBMIが18.5未満を「やせ」、18.5以上25.0未満を「普通」、25.0以上30.0未満を「太りすぎ」、30.0以上を「肥満」と分類し、宮城県内の40〜79歳の男女約44000人を1995年から2006年まで追跡調査し、分析しました。 その結果、40歳の人の肥満度ごとの平均余命は、男女とも順序は同じで、「太りすぎ」が最長(男性40.5年、女性47.0年)。以下は「普通」(男性38.7年、女性46.3年)、「肥満」(男性37.9年、女性44.9年)、「やせ」(男性33.8年、女性41.1年)の順でした。 つまり、40歳の人の平均余命は、肥満度別にみると「やせ」の人が最も短く、最も長い「太りすぎ」の人より6年程度短命という結果になっています。 痩せた人では、免疫力や治癒力が低下し、呼吸器感染症などによって死亡する率が高くなるようです。

痩せががんの発生率を高めることも明らかになっています。 日本における厚生労働省研究班による多目的コホート研究(JPHC研究)によると、男性のがん全体の発生率は、BMIが30以上で約20%、BMIが19未満で約30%の上昇が認められています。しかし、日本人ではBMIが30以上の高度肥満の人の割合は2〜3%程度であるので、肥満によるがん発生の影響はあまり問題になっていません。日本ではむしろ痩せ過ぎによる発がんリスクの方が問題視されています。

BMI30以上の肥満が人口の約30%と言われる米国では、肥満による発がんリスクの上昇が問題になっています。米国の疫学研究では、乳がん・結腸直腸がん・食道がん・肝臓がん・胆のうがん・膵臓がん・腎臓がん・子宮がん・卵巣がん・前立腺がんなど多くのがんにおいて、肥満が発生率を高めることが示されています。
がん治療後の再発に関しても、肥満が再発率を高め生存期間を短くすることが、乳がん・大腸がん・卵巣がん・前立腺がんなど幾つかのがんで示されています。肥満は様々な理由によってがんの発生や再発を促進しますが、その理由の一つはインスリン抵抗性によって血清インスリン濃度が高くなることが関連しています。

痩せ過ぎががん患者の予後を悪くする理由は栄養状態の悪化が免疫力や治癒力を低下させるからです。栄養不良は体の抵抗力を低下させ、肺炎や結核などの感染症による死亡率を高めますが、日本も含めて多くの先進国では栄養不良や痩せ過ぎによる疾病に対する感心は低くなっています。しかし、がんの患者さんにとっては、肥満よりも痩せ過ぎの方が一般的であり、再発率や生存期間に対する影響は大きいようです。がん患者さんの中には、診断時にすでに栄養不良で体重減少が見られる場合もあります。あるいは、がん治療によって栄養状態の悪化や体重減少が起こることもあります。がん治療後に栄養状態を良くし、健康的な体重に戻し、体力と免疫力を高めることは再発予防や延命に重要です。

大腸がんで治療を受けた4288例を対象に米国で行われた研究では、正常体重(BMI:18.5-24.9)に比べて、高度肥満(BMI:35以上)の場合の再発率は1.38倍でしたが、低体重の場合の再発率は上がっていませんでした。しかし、死亡の相対リスクは、正常体重の患者と比べて、高度肥満(BMI:35以上)で1.28倍、低体重(BMI:18.5未満)では1.49倍でした。低体重では、再発する前に別の疾患(感染症や別のがんなど)で死亡する率が、正常体重患者の2.23倍であることが示されています。つまり、大腸がんの場合は、高度肥満では再発を促進するために死亡率が高くなり、低体重の場合は抵抗力の低下などが原因となって再発以外の原因で死亡する率が高くなるようです。


乳がんでは肥満が再発率を高め予後を悪くすることが多くの研究で明らかになっていますが、痩せ過ぎも転移や局所再発のリスクを高め生存期間を短くすることが、韓国で行われた研究で示されています。肥満の少ないアジアの乳がん患者の場合は、肥満よりも痩せ過ぎの方が問題かもしれません。 痩せ過ぎの場合は、栄養不良によって体に備わった免疫力や抗酸化力が低下することが予想されます。免疫力が低下すると、治療後に残ったがん細胞の増殖が起こりやすくなります。抗酸化力が低下すると、活性酸素やフリーラジカルの害によってがん細胞の悪性進展が促進されます。感染症の治りが悪く炎症が長く続くと、炎症性サイトカインや増殖因子の働きによって、腫瘍血管の新生やがん細胞の増殖が促進されます。

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